ABOUT

遠く地球を見つめる
月の枯山水

この設計は月面上にロボットによって施工する枯山水や、それにまつわる計画です。

1968年のアポロ8号の月までの飛行から半世紀が経った現代でも、宇宙開発において月面基地は常に掲げられる大きな目標ですが、それは未だ遠い目標です。
居住空間の建築という高度な施工に向けた中間の目標として行う、比較的簡易的な施工実験として月面枯山水を計画しました。
同時に、人類史や文化としての宇宙開発の価値を再構築することを目標としています。


地球の衛星。衛星としては非常に質量が大きいため地球に与える影響も大きい。潮の満ち引きや月光など生態系にとっての様々な基準となるリズムを作り出している。月がなければ、現在のような地球の姿は無かっただろう。
アポロ8号
1968年の有人で月までの飛行を初めて遂げたミッション。月の地表を目視し、月からの地球の出の写真を収めた。宇宙開発史上最も重要なミッションであると同時に人類にとって初めて月の視点から地球を見た瞬間となった。
枯山水
水を用いない日本庭園の総称。樹木などを用いないものはその中でも石庭と分類されるため、月面枯山水は月面石庭でもある。室町時代以降に禅宗寺院などを中心に用いられている。龍安寺石庭などが有名で、現代でも非常に人気が高い。
月面基地
月面での居住・実験場などとして構想される施設。アイデア自体は半世紀以上前からあるが、その難しさから実現には至っていない。現代でも宇宙開発における重要な目標とされており、近年では月の素材を用いた建築方法が注目されている。

SITE

地球は月の宙、
一点に浮かび輝く。

月は地球に対して常に同じ面を向けているため、 月面から観る地球は常に一点に停まっています。
その位置は月面上の緯度経度で決まり、緯度が高いほど地球は低い位置に見えます。
枯山水の先の地球を借景として捉えるため、「20~25°の位置に地球が見える」「名前が付いている中で比較的小さめのクレーター」と条件を絞った結果、 『エピゲネス』というクレーターの中央を敷地に設定しました。

月の昼夜
月と太陽の関係は、月の公転によって変わる。月の一日、つまり太陽が一周するのは地球時間で約1ヶ月で、昼と夜がそれぞれ約17.3日ずつある。その温度差は非常に激しく昼は+110℃、夜は-170℃近くにもなる。
月の自転
月の自転と公転は同じ角速度なため、常に同じ面が地球を向いている。実は、月の質量は不均一で地球を向いている側の方が重いため、常にその面が地球に引き寄せられていると考えた方が分かりやすいかもしれない。
エピゲネス
敷地として設定したクレーター。それでも非常に大きく半径xkmもある。敷地はその中央にあるため、周囲低い角度でこのクレーターの山に囲まれており、太陽の移動に伴いその山肌の光も変化する。。
地球の位置
地球から月が動いて見えるのは、主に地球の自転が原因だが、月はその影響が無ないため動かない。地球の高さは緯度に反比例して、赤道上なら天頂、極なら水平線に地球が浮かぶことになる。その地球は1日1回転している。

MOON

人類は全く同じ月に、
無限の世界をみてきた。

月は地球と同じ約46億年前に誕生し、数億年間の隕石衝突などを経て現在の形になりました。
その姿は人類が存在する前から全くと言って良いほど変わらず、有史以前からも全ての人間は同じ姿の月を観ています。

しかし、月の「見え方」は地域や時代によって全く違います。古くは暦や夜を司る存在、竹取物語のような異世界でした。
望遠鏡や万有引力の法則により天体の概念が広まり、月は神話から天文学の存在になりましたが、それでも月はほとんど謎の天体でした。

冷戦時代の宇宙開発競争によって月の地表や成分などがわかり、人が足を踏み入れました。
そして、月はたどり着けない未開の地ではなくなり、 人類がたどり着いた最果ての地へと変わりました。

月の存在は人類が存在する前から全く変わりません。
しかし、人々の月の見え方は変わり続けます。

地球と月の誕生
その経緯には諸説あるが、現在では太陽系形成時に原始地球に火星大の星が衝突、2星が分散・融合して地球とその周りに月ができたという「大衝突説」が主流となっている。証拠として、月から回収された石は地球の物とほとんど同じ構成となっている。
月と神話
古代日本ではツクヨミ、古代ギリシアではアルテミスなど、世界各地で主に夜や暦を司る神格化される事が多い。また、太陽と対になる存在や、古代エジプトのホルスのように太陽と共に天空神とされることもある。
万有引力の法則
ニュートンによる、質量のあるもの同士が引き合う法則。これにより、人の居る地上界と天界の月や星々が同じ物理法則を持っていることを説明でるようになり物理学・宇宙観が大きく変化・進展する。
宇宙開発競争
冷戦中、アメリカとソ連によって行われた競争。宇宙開発におけるほとんどの成果はソ連が先を越した。国内でも賛否があったものの、アメリカは月に人を送ることを目標とし、有人月面着陸を人類史上初めて達成した。

GARDEN

「見えない石」が
組まれた地を読む。

着陸船からは月面上での定点観察を行うため、全方位にカメラを向けます。そこから、地球の庭では、1方向に作ることが多いですが、360度円形に枯山水を作ることにしました。

作庭はその土地の特徴を読むことから始まります。月と地球の土地の大きな違いは、クレーターの存在があります。クレーターは大小さまざまな隕石が衝突した衝撃波によってできた「波紋」です。

隕石はすでに蒸発しているものの、それを既に据えられた「石」と見ることにし、砂紋を描き足すことにしました。

クレーター
隕石による衝撃波で作られる窪地。数100km級のものから顕微鏡でしか見れない極小のものまで様々なサイズのものがある。望遠鏡などで地球から確認できる小さいクレーターでも数kmの大きさがある。
月に落ちる隕石
月の模様を形作った巨大なクレーターは数十億年前の月形当時のものだ。今ではそれほどの巨大な隕石はまず落ちないが、小さいものは常に降り注いでいる。ミクロサイズのものが多く、月の石には極小のクレーターができている。

ZEN

月の世界の侘寂

日本の美は時に「侘・寂」という概念で語られます。

水はおろか大気も、地球に有るような色も音も生命も
無い月の世界。その地表は数十億年ほとんど変わること
無く、太陽風などによって風化されています。
太陽の動きは、地球の約1 / 27で、
昼夜がそれぞれ2週間続きます。

もしこの世界に美しさを見出すとすれば、
それは「侘・寂」の心なのかもしれません。

侘び寂び
侘:不完全さ・不足の中に見出す美
寂:時間経過・静寂の中に見出す美
室町時代以降、日本の茶の文化の中で発展した美意識であり、合わせて語られる事が多い。
月の色
月は地球から見れば白く光っているが、実際の月の地表は暗いグレーや赤茶色をしていたりする。これは、月に当たる日光が強いために白く見える現象で、実際に持ち帰られた石は白ではなく、またその誕生の経緯から地球の石と非常によく似ている。
月の水
長年月には水は存在しないとされていたが、近年月の地表に多くの水が存在する事が発覚した。地球のような地表を流れたり大気となることは無いが、将来的には水を抽出する事が可能なのかもしれない。
太陽風
太陽から吹き出す、プラズマ化した水素などのこと。当たった物質に大きな影響を与えるが、地球上では地磁気や大気により防がれている。宇宙空間や月面上では、これらを防ぐのも課題の1つとなる。

PLAN

機械を通し月と対話し、
庭へと昇華させる。

枯山水の設計や施工は、月面上のロボットと地球上のスタッフとの連携で行われます。
特に枯山水のデザインは、疎石のスキャンした石や円憬庵や雲水から得た地形データを元に行われます。

月でスキャンされた地形と石のデータから3Dプリントなどを用いて複製し、地球で仮組みという仮の施工を行いデザインを決定します。その決定されたデータを元にロボット達が半自動で施工を行います。

しかし、ロボット達は太陽光や原子力電池によってしかエネルギーを得られないため、単純な施工ではありながら長い施工期間が必要になります。また月では表面温度が-170℃以下になる夜が2週間続きます。その期間の施工はロボットの故障に繋がるため施工を行うことはできません。

MACHINES

円憬庵 enkei-an

遥か遠く、月の方丈。

月面への着陸船。着陸後は太陽光パネルを展開して発電を行い、月面枯山水の光景を地球に送る拠点となります。

枯山水が周囲360度に作られるため、4面にあるカメラで撮影を行います。月面から地球や太陽など天体の観測をカメラを中心に継続的に行い、ほぼリアルタイムで地球の姿を地球へ送ります。

形状は丸柱や扇垂木など、禅宗建築の様式をモチーフにしたデザインとなっています。和風家屋において縁側から庭に向かい坐禅をする時の目線の高さにカメラが設置されており、上下の太陽光パネルはそれぞれ屋根・縁側と同じように太陽光を遮り、光景を切り取ります。

月からしか
見えないものがある。

円憬庵が地球へ送る月面からの光景は、月面上のモノクロームの世界にある枯山水と青く輝く地球、もしくは一面の星空でしょう。
月から見上げる地球は、動くことなく留まり続け、その27.3日周期で満ち欠けを繰り返します。

地球から見て満月の時、月からは地球は暗く新月の状態に。新月の今日、月面からは地球が丸く、満地球を見ることができます。

その映像は科学的な観察・研究用途のほかにも、地球上の多様なメディアで利用されるかもしれません。スマートウィンドウやCG空間、CMや映画などの背景やニュース番組の天気コーナー。社会の教科書、掛け軸、銭湯の壁画、カラオケの映像…?
リアルタイムの地球の姿を常に観ることのできる時、人はそこに何を思うのでしょうか。

地球照
月における月光にあたるもの。地球に太陽光が反射し、月の地表を照らす現象。地球の方が月より大きく地表が水に覆われてるため反射率が高く、満地球の時であれば夜でも月の地表は明るい。
地食
太陽と地球と月の3つの星が一直線上に並んだ時に起こるため、地球では同時に日食が起きている。月は小さく地球上の日食が起きている場所に月の陰ができる。同様に、月の日食も地球での月食と同時に起こる。

雲水 unsui

地下に眠る月の水。
その流れを地上に描く。

レゴリス(月の砂)を運び、砂紋を作るロボット。

禅宗における修行僧の呼称から命名。周辺の土地をならし、石を立てるための掘削などを行う役割を持っています。地形をスキャンし、そのデータから行った仮組みを基に、自動で施工を行います。

レゴリスは数億年の風化によってできた非常に細かい粒子で、その上を移動しただけでも跡が残ってしまいます。そのため、最後の砂紋を描く工程でキャタピラの跡を消すため前後にブラシ・ショベルが付いています。

疎石 soseki

地球の庭には地球の石。
月の庭には月の石。

月の石を収集、運搬、設置するロボット。

歴史上の庭師であり禅僧でもあった夢窓疎石から命名。
単独で石を探し、庭に据えるなどの役割を持っています。石の形状をスキャンし、その3Dデータは円憬庵を経由して地球に送られ、そのデータを基に石選びや設計、仮組みが行われます。

2本のアームで石を持ち上げ、車体を回転させて荷台に載せ、敷地まで運びます。施工作業終了後は、雲水と共に着陸時のように円憬庵の下に格納され、バッテリーや原子力電池などを共有します。

CREDIT

Design,Direction

KUROISHI NODOKA

3DCGI modeling

HAMADA AKIRA

modeling,constraction

NIIYAMA SAYURI
FUJITA YUTO
NAKAYAMA RINTARO
ITO SAKURA
HIHARA KEI
ITO NORIAKI

first idea

SASAKI TAKUYA

produce

UCHIHARA SATOSHI

EARTH

小さな庭からみる、
小さな青い星。

宇宙開発は科学的な価値以上に、その社会的、人類史的な意義などが求められる傾向があります。半世紀前の宇宙開発競争はまさに、国家をかけた人類史上の成果を競うものでした。
現代は冷戦も終わり、宇宙開発ベンチャーや様々な国家が宇宙開発に乗り出し始めています。 この先の宇宙開発では国力や科学的な価値のみならず、文化として無数の価値観が生まれると考えています。月面枯山水では、その無数の価値観の中で起こりうる伝統文化と最新技術によって生まれうるものの一つです。
もしも月に何かを作れる時が来たら、あなたは何を作りますか?